ネジの締め付け方法としても、トルク締めのほかに、角度締めという手法がある。
これは回転角度法とも呼ばれ、高い軸力を正しく得ようとするときに有効とされる方法である。
というもの、トルク締めの場合、あまりに高いトルクになってくると座面が摩擦で焼き付いたりすることがある。そうすると、通常は0.2として考えている摩擦係数も変化してしまう。つまり、想定どおりの軸力がかからないこともあり得るわけだ。
一方で角度締めとは、ネジの締め角度に対して軸力のかかり方が一定の比率で高まることを利用したもの。締め込みに対して安定して軸力が上がる領域に達すれば、ネジのピッチは一定だから、ボルトを締める回転角で正確な軸力もわかる。
たとえばネジピッチが1mmのボルトであれば、1回転で1mm、半回転で0.5mm、36度だけなら0.1mmだと締め込み量がわかる。だから、軸力も推測しやすい。
ただし、この角度締めも万能ではない。まず、ネジと部材がぴったりと密着したあとの、角度とともに軸力が直線的に増えていく領域でないと使えない。それ以下の領域では、ほとんど軸力がかかっていない不安定な状態なのである。軸力が上昇し始めるところをスナッグ点というが、まずはそのポイントにトルク締めで合わせなければならないのだ。
車のサービスマニュアルで、角締めが指定されているところには、必ず一次締め付けトルクが明記されている。つまりそれがスナッグ点に持っていくための締め付けトルクだ。そしてサービスマニュアルでは、さらにそこから何度締め付けるというような指示になっているはず。もちろんサービスマニュアルなどで明記されている場合はいい。しかし、本来は角度締めの指定ではない部品を変更した場合もそうだが、新たにスナッグ点を見つけ出すことは、アマチュアには少し難しい。もっとも、そのへんをクリアできる技術があれば角締めは有効だし、一方で締め付けトルク締めも、座面の摩擦を潤滑油などでうまくカバーし切ればいいわけだ。実際、レースなどでも、どちらの方法を取るかはチームによってそれぞれだという。ちなみに、スナッグトルクと、その後の締め角度の両方を設定して使えるデジタルタイプのトルクレンチというのも存在している。
トルクレンチ利用後は必ず、設定トルクを一番弱い目盛りよりも下まで下げておく。高いトルクの設定にしたまま長時間放置しておくと、内部のバネがへたってしまう。また、手入れをする際の注意点としては、レンチ内部には注油しないこと。内部には特殊なグリースが使われているので、違う油を入れると内部の摩擦具合が変わって、設定値がずれる可能性がある。
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